国際的な英字新聞に、白雪姫をもじったマンガが掲載され、
ニューヨーク総領事館が抗議を申し入れたのは今年(2011年)の4月下旬だった。
毒リンゴを差し出す老婆に、白雪姫が、
ちょっと待って。それは日本産?
と聞いているというマンガだ。
原発事故以来、放射線量が取り沙汰されていて、
海外だけでなく国内でも食品の風評被害が深刻であったさなかのことである。
「日本産の食品に関して根拠のない不安をあおりかねない」
という抗議にニューヨーク・タイムス社はすぐさま謝罪した。
異例といってもよい。
しかし、それで風評被害が収束したかといえば、そうは行かない。
それは、風評というものが本質的に
「お上(かみ)の言っていることなど信じられるもんか」
というような、上からの情報への不信から発生した側面があるからではないか。
だとすれば、風評が語っている象徴的な真実は、
日本の食品がどうのこうのということよりも、
「上からの情報は信じるな」
ということではないのだろうか。
そういうときに有効なのは、
下からというと聞こえが悪いのだが、
人から人へ、民から民へ、
まるで贈り物を手渡しするように、
情報を伝えていく作業なのだろう。
ゴツゴツとした岩が、
長い河を流れ下っていくうちに丸い石となるように、
話が民の間を伝わっていくうちに、
象徴的な真実が磨かれていくにちがいない。
インターネットが発達して、
地球の隅々までヴィヴィッドな情報が瞬時にして送れるようになっても、
風評被害を鎮めるほどには情報の手渡しは進まない。
毒リンゴを差し出す老婆は、
今日の白雪姫の話の中では、姫の美しさに嫉妬した意地悪な継母ということになっているが、
グリム童話の初版本におさめられたときは実母であったという。
グリム兄弟はその話を、
19世紀はじめにドイツ・ヘッセン地方の民の間を伝わる話から採取したのであった。