JUST There(そこが訊きたい)! 斉藤先生(14)
(前回よりつづく)
―― フランスとは逆に、先生がアメリカに行かれて、患者になりすまして、いろんなミーティングに出たという、あの期間はいかがでしたか。
斉藤先生:ああ、あれは……。
そうですね、事実の発見というかな、言葉を鍛錬するという意味ではアメリカのほうが役に立ったかもしれない。
フランスではサンタンヌ病院に籍を置いていて、サンタンヌというのはパリ大学医学部精神科のブランチだから、まさにアカデミズムの中枢にいたわけですよ。
逆にアメリカで私がいたところというのは、医者がいないわけだから、患者言語で支配されているのね。カウンセラーも、エクス・アルコホリック(ex-alcoholic:元アルコール依存症者)と自分たちでは言っているけども、私から見ればアルコホリックそのものだよね。
そういうアディクト(嗜癖者)が、別のアディクトを治療する、みたいな構造は面白いと思ったわけです。そこには、月に一回とか、週に一回とか、専門職として看護師がやってくるんだが、その看護師もどこかの他の病院に所属していて、よほど問題があれば、そこの病院の医者が、たまに来るみたいな形態だった。「ほう、なるほど」と思ったわけです。
―― そういう機関は、トップも医師ではないんですか。
斉藤先生:トップはサイコロジスト(心理士)で、これはアル中かどうか知りませんけど、当時サイコロジストだけで運営している形態が、すでに非常に珍しかったし、元患者のアディクトがちゃんと給料もらってカウンセリングなんかの仕事しているというのが、非常に面白かったんだよ。
しかも、そういうところに巨額な資金を出すところがちゃんとある。あれは「献金する」というよりも、資金の回収を考えているというか、収益を狙って投資しているわけですよ。となると、そういう施設の運営自体が一つの事業だよね。
それは事業に、ちゃんと事業資金を出す人がいて、五大湖のほとりの環境のいい広大な土地に平屋建ての病棟を点々と作って、稼働率9割ぐらいでやっているわけですよ。これはもう、びっくりだったね。
このシステムを日本に持ってくることができるだろうか、とか、いろいろ考えされられた。
私の思考の一端は、いつも事業になっているんですよ。単なる社会貢献とかに収まらないで、「これで日本で事業としてやっていけるだろうか」と。
(つづく)