IP |
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IP(アイピー)とは、アイデンティファイド・ペイシャント(identified patient)の略で、直訳は「患者とされた人」のことをいいますが、この言葉が必要である深い理由は、「患者とされた人だけが患者ではない」という、より深い意味を背景にもっているところにあります。 家族療法などで、機能不全家族を対象とする場合、家族ぜんたいを一つのシステム的な病理と見るので、自分から「私が患者です」と名乗って医療につながってきた人だけが患者であるとは考えません。 しかし、治療は誰かから始めなければならないので、最初に治療につながってきた人が「IP」と呼ばれます。 むしろ、その人は、自分は病気かもしれないと考えるようになっただけ、先々のことを読む力があり、慣れない考え方を摂取する柔軟性もあり、敷居が高かった精神科の医療機関につながった決断力においても優れています。そのため、その人に隠れて治療につながることができない、家族のほかのメンバーよりも、治癒力がある場合がほとんどです。 逆にいえば、ほんとうに精神的な病理に冒されている人は、まっさきに自分を病気だと認めるだけの柔軟性や、医療機関につながるだけの行動力を持っていません。 たとえば、ひきこもりの息子に絶望した母親が、自分の鬱をきっかけとして治療につながった場合、この母親は「IP」であるのと同時に、医療機関に来る力すらなく、もっと病理の深いひきこもりの息子を、間接的に治療につなげたことになります。 IPから、その家族全体の治療が始まるのです。 |