用語集

魂(たましい)

(たましい / soul)というと、何やらオカルトじみた、オバケや心霊現象の話だと思う方も多いことでしょう。また、魂について語るようになったら精神医療はすでに科学ではない、あるいは魂という言葉を用いて説明するようになったら精神医療は自ら敗北を認めたのも同然、と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ちょっと待ってください。
たとえば、レントゲン写真を撮ると、人がどのような衣服をまとっていても、またどのような筋肉を持っていても、骨格など、核にあたるものが白く像に浮かび上がります。
治療や回復の現場で使われるという言葉は、人の生きざまの中で、このような核にあたる部分をさすのに使われます。

人の生きてきた軌跡を、ずっと見たり聞いたりしていると、その人が最終的に何を求めどこへ行こうとしているのかがわかることがあります。数値を測って容易に測定できるものではないので、実証主義的(エビデンスベイズド)には証明できませんが、このとき、それはその人の「魂」が求めているものである、といった考え方ができ、またそうすることで、有効な対策を打ち出せることがあることでしょう。

そういうときのために「魂」という言葉は使われます。

もちろん、
「お前はそうは言っていないが、お前の魂がそう言っている」
などと決めつけることは、本人が見かけ上の主体として言葉で言っていることを否定し、語られていない「魂」という、もう一つの主体を勝手に想定することですから、一歩間違えれば、本人の主体を尊重せずに支配することにもつながりかねない、危険なことでもあります。それだけに、あまり軽々しく使う用語でもありません。

魂を見抜けるのは、何も精神科医などの治療者とはかぎりません。いつの時代でも、どこの社会でも、そういう能力を持った存在が社会にはいるものです。たとえば日本文化では、能楽に出てくる「諸国一見の僧」といった役柄が、そのような存在を象徴しています。

なお、ここで使われる「魂」という言葉には、「スポーツ魂」「大和魂」などと言われるときのように「熱情」といった意味はありません。