回復 |
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回復(かいふく / recovery)とは、ひと昔前は「恢復(かいふく)」とも書き、「治癒(ちゆ)」とほぼ同じ意味で使われ、病気の状態にあった人が、その病気をする前の状態へ戻ることをいいました。 しかし、嗜癖のメカニズムが解明されてくるにしたがって、必ずしも、そのように安直に割り切れないことがわかってきました。 もともと、人間の身体のように生きているもの(生体)に起こる病気という現象を、どのようにとらえるかによって、回復や治癒といった概念にも違いが生まれてきます。 医療の現場では、何かの症状を訴えてきている患者を診察して、ある基準にあてはめてそれが何の病気かを診断し、その状態がなくなっていくこと、すなわち病気であるとした状態がその身体から消えていくことを「治癒」と呼びます。 たとえば、一般に「盲腸(もうちょう)」という名で知られる虫垂炎(ちゅうすいえん)という病気は、おなかの中にある虫垂という部分が炎症を起こしている状態で、手術して虫垂を取ってしまえば治ります。治癒するのです。 しかし、炎症という現象は、一つの生体(たとえばあなたの身体)には、入れかわり立ちかわりやってくる出来事です。虫に刺されれば皮膚が炎症を起こしますし、歯ぐきがはれてもそれは炎症です。食べ過ぎれば胃炎になりますし、肺炎は死をもたらしかねません。そんなふうに、私たちは一生、何らかのかたちで炎症とつきあっていかなくてはなりません。 したがって、虫垂炎の治癒が医師から宣言されたとしても、炎症という病気から治癒したわけではないのです。 依存症という病気は、またいつどこで形を変えて出てくるかわからない、という意味で炎症と同じように考えていただいてよいでしょう。 だから私たちは、「依存症から回復した」とは言わず、「依存症からの回復」と言うわけです。 ほんとうに回復という言葉の意味を知っている人は、「依存症から回復した」などと、過去形や現在完了形では言いません。 回復はつねに現在進行形か未来形の行為といってよいでしょう。 そのために、こんにちでは回復は治癒よりも成長に近い概念として考えられています。 なまじっか「良くなった、良くなった」と喜んでいると、自分を過大評価してしまい、けっきょく元へ逆戻りというケースになりやすいのが、この回復という道につきまとう困難さです。 回復の途上にあった人が、ふたたび症状にとらわれた状態に陥ることを、回復の現場では「スリップ(slip)した」などといいます。 医療現場から見て、完治まで行かないまでも、臨床的に、あるいは社会生活を営む上で問題のない程度にまで状態がよくなったときには、寛解(abatement)と呼びます。 「リカバリー」の項もごらんください。 |