アダルトチルドレンの由来 |
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アダルトチルドレンという概念について世界で最初に書かれた本は、1969年にカナダのトロントでマーガレット・コークがひっそりと出版した『忘れられた子どもたち』(R.Margaret Cork, " The forgotten children : a study of children with alcoholic parents")でした。しかし一般にはほとんど知られることなく、歳月の中に埋もれていきました。 その後、アメリカのソーシャル・ワーカーだったクラウディア・ブラック(Claudia Black)が、アルコール依存症患者の親を持って成人に達した人たちに、いくつかの共通点があることに気づき、彼らをAdult Children of Alocoholic と呼んだのが起源とされています。これは略されてACOA、さらに短縮するときにはACと言われるようになりました。 こうして名づけられたことから、こんにち私たちが使うアダルトチルドレンという概念は、アルコール臨床にたずさわる専門家のあいだで、また当事者が自分たちの特性を理解するために、急速に広まっていきました。 それまで、親にアルコール依存症の患者を持った子は、大人になって逸脱的な反社会的行動を起こしやすいという定説がありましたが、ブラックは1981年『私は親のようにならない』(It will never happen to me)を著わし、必ずしもそんなことはないと反論しました。 つまり、反社会的行動を起こせば、それはメディアなどに取り上げられて目立つため、いつしか人はそのような社会的イメージを作りやすいが、数としてはむしろ20%以下であり、そうでない80%は静かな人で忘れさられてしまうことが多いと主張したのです。そこにブラックが、1969年刊の『忘れられた子どもたち』を引き継いでいるのがわかります。 そして、酒害家庭で育ちながらも今はいっけん問題を起こしていない子どもたちは、機能していない家族システムに適応することで何とか生き延びているものの、思春期を過ぎてから感情や行動の面で、ある特徴を持った障害をおこす傾向があり、これに対してしかるべきケアが必要であると訴えました。 1980年代後半には、そのような特徴を持った障害は、酒害家庭に育った子ども以外にも見られることが発見され、アメリカではそのような子どもを Adult Children of Dysfunctional Family(機能不全家族で育ったアダルトチルドレン)と呼ぶようになり、ACODと略されました。ACODによってACOAの範囲が広がったのでした。 こうして「酒害家庭で育ち、いまは大人になった人々」という意味にしか過ぎなかったACは、AC movement と呼ばれる市民運動にまで発展し、より広い意味を込められるようになりました。 このように、ACは一つの名詞というよりは、それが含んでいる概念がたいへん大きいので、しばしば「何を指すか」が論議の的となり、そのため「AC概念」といった言い方がなされます。 しかし、こんにちの日本ではふつうに「AC」「アダルトチルドレン」といえば、ACOFの意味のことだと考えていただければよいでしょう。 1989年、上記『私は親のようにならない』が齊藤學によって日本語に翻訳され、アダルトチルドレンという概念が日本に紹介され、ある混乱を引き起こすことになります。その後のことについては「アダルトチルドレンの日本での展開」の項をごらんください。 |