戦争トラウマ |
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戦争トラウマとは、戦争によって起こった心的外傷のことをいいます。トラウマやPTSDの成り立ちを考える上では、きわめて重要視されています。 PTSDの研究が始まったのは事実上19世紀ですが、20世紀前半にいったん行なわれなくなっていました。そこへ1941年、カーディナー『戦争によるトラウマ後遺症』(A. Kardinar,"The Traumatic Neurosis of War", New York, 1941)という論文が発表され、しばらく研究がやんでいた、こんにちのPTSDにあたる事柄について述べられるようになりました。 たとえば戦場から帰ってきた兵士が、飛行機の音を聞いただけで、あるいはその時の音を聞き、臭いを嗅いだだけで、空襲を想起してパニック状態になる驚愕反応が言及されています。動悸がしたり、血圧が上がったり、情緒不安定にもなる、いまでいうパニック発作のことです。空襲が心的外傷となったのでしょう。 いまでは戦争トラウマという病名はありませんが、トラウマを受けて一か月以内に発症しているそのような症状をASDとしています。 その後、1960年代になると、性的虐待を主とした児童虐待についての事実がアメリカで取り上げられるようになり、一方で私たちはフランクル『夜と霧』などにより、第二次世界大戦のときに、ナチスの強制収容所を生き延びたサバイバーたちの心の傷について知ることになりました。無気力や鬱など、そうした人々に見られる人格の変わり方は、強制収容所症候群と名づけられました。 やがてベトナム戦争が始まり、ここから帰還した兵士たちに多く戦争トラウマによる症状が見られ、一方ではレイプやDVにあった女性被害者にも同様の症状が認められ、1970年代に入るとフェミニストたちが児童、特に女の子が被害者になる性的虐待の実態を白日の下にさらすために、こうした現象の研究が進み、やがてPTSDという概念へまとめられていきました。 |