用語集

精神疾患

精神疾患(せいしんしっかん / mental disease)とは、一般にいう「こころの病(mental illness)」のことです。

脳や心の器質的な異常によって、また器質的な異常がなくても機能が異常であることによって引き起こされる病気をいいます。

統合失調症のような精神病から、気分障害、パニック障害、適応障害など幅広く網羅しています。さらに精神の変調が原因で起こる髄膜炎や内分泌疾患など、身体の病気もふくまれることがあります。

しかし、ここには大きな問題があります。
ほんらい「疾患(disease)」とは、内科などの領域で考えればわかりやすいように、身体の一部である器官などが病変といって物質的に変わってしまうことから生じる病気のことをいいます。いっぽう「disorder」はふつう障害と訳され、そこには身体器官の病変はなく、ただ機能不全であること、うまく働いていないことを指しています。つまり「疾患(disease)」は病理学上の異常であり、「障害(disorder)」は行動科学上の異常なのです。
これを精神科領域にあてはめるとどうなるでしょうか。たとえば、脳であれば身体器官だから疾患になることはありますが、精神は身体器官ではないので疾患になることはできない、という専門家もいます(Thomas S.Szaszなど)。

この考えによれば、神経梅毒、脳損傷、中毒症、感染症、てんかんなど客観的な検査によって病変が証明される場合以外の精神的な病気は、行動科学上の機能不全であって、疾患ではないということになります。
こういう批判があったためか、DSM-IVではほんらい精神障害と訳されるべきmental disorderは、すべて精神疾患と訳されました。けれども、さすがに無理があると思ったのでしょう、DSM-5からはmental disorderは、すべて精神障害と訳されています。

日本の専門家がつかう権威ある『医学書院 医学大辞典 第2版』『最新医学大辞典 第3版』には、「精神障害」の項目はありますが、「精神疾患」という項目はありません。

いずれにせよ、精神疾患や精神障害を対象とする医学が精神医学であり、それを実践する体制が精神医療です。

どの精神疾患をどのように分類するかについては、世界保健機構(WHO)が発表するICDや、アメリカ精神医学会が発表するDSMによって、つねに改良が重ねられています。
そのためヒステリー神経症のように、かつては代表的な精神疾患の名前だったのに、すでに診断名からは消えてしまった病名もあります。