クライエント |
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クライエント( client )とは、基本的に「依頼人」と訳されますが、もともとは、弁護士に法律相談にやってくる人や、広告代理店などに仕事を依頼しにくる顧客を指すカタカナ言葉でした。 ところが、近ごろはカウンセリングなど心理療法を受ける人や、精神保健福祉などに相談に来る人のことも指すようになり、ひいては精神医療における患者のことをいうようになってきました。そのため、日本語では来談者と訳される場合があります。 そのような変化の背景としては、精神医療の場において治療者に会いに来る人が、必ずしも自分は患者だと思っていない場合や、じっさい患者と呼ぶにはふさわしくない場合がある、という理由があります。 それでも、何がしかの相談や困りごとがあって治療者を訪れていることは確かなので、来談者、クライエントと呼ぶようになってきたわけです。 もう一つの背景としては、消費社会において、どの業界においても、昔に比べると消費者の権利が尊重されるようになってきた傾向があります。 それゆえに、司法消費者、報道消費者といった語にならって、患者とその家族も医療消費者と称されるようになってきました。 この視点に立てば、治療者に支配される患者という治療者患者関係はすでに過去のものであり、患者は医療費というお金で、治療者から医療サービスを購入する「お客さん」という位置づけになります。そのため、広告業界などで「お客さん」を意味するクライエントが用いられるようになってきたのです。 したがって、これは単に呼称の問題だけでなく、過去の医療における治療者患者関係への反省から生まれ、発達してきた自助グループの思想とも通じるものを含む、あらたな価値観の提示の一端であるとも考えられます。 なお、ビジネス分野における一般の顧客や、コンピュータ・ネットワークにおける端末という意味での client は、英語では同じ言葉ですが、日本語にされると「クライアント」と書かれます。こういう表記が将来的に統一されるのか、されるとしたら「エ」と「ア」のどちらなのか、それとも統一されないままいくのか、などが言語現象として見守られるところです。 |