用語集

薬物療法

薬物療法(やくぶつりょうほう / pharmacotherapy)とは、薬を投与して治療をする方法のことをいいます。精神医療においては、精神療法と区別する療法として、またその他の領域の一般医療では、手術などの外科的措置と区別する療法として考えられます。
患者の病気を治すことを目的とするだけでなく、完治しなくても患者がより良い人生を歩めるようにする(つまり、QOLを高める)ことが、薬物療法の目的であったりします。精神疾患は、すぐにケロリとよくなる病気が少ないことを考えると、むしろ後者の方が多いかもしれません。

精神療法では、19世紀末に精神分析が創始されましたが、多額の費用と長い年月がかかるため、20世紀に入ってもそれほど普及しませんでした。
20世紀において精神医療が進化したアメリカでは、国民性として持っている効率主義の影響もあって、精神療法よりも即効性のある薬物療法が人気を集めていきました。

ところが1962年にレイチェル・カーソン『沈黙の春』が発表され、農薬を主とした化学物質を体内に取り込むことの危険性が指摘されたり、他領域の医療分野において薬害が多く報道されたりしたので、20世紀後半からは「もともと自然界に存在しない物質」である化学物質を体内に摂取する薬物療法は、一部の人々によって忌避される動きも出てきて、現在に至っています。

なるほど薬害などの事例も確かに存在しますが、私たちがふつう使う薬品は、いくつかの基準を満たすことで、いちおう安全性が保証されています。
不安材料を挙げていけばキリがないですが、自分が苦しんでいる症状をやわらげるためにどうするべきかは、最終的には自己判断ということになります。

また、「もともと自然界に存在しない物質を体内にとりこむ」のが薬物療法であるという認識も正しくありません。生薬(しょうやく)、漢方薬を投与することも薬物療法の一部です。
漢方薬をふくめ、薬にはすべて作用副作用があります。作用だけの薬というのは、存在しないといってよいでしょう。

以前は、ある意味で薬物療法と精神療法は対立するものとしてとらえられていましたが、近年ではそれらは通常、併用されるものであり、精神療法によって患者の認知を治していくためには、まず精神療法を受けられる程度にまで患者のコンディションを薬物療法によって整えていく、といった治療構造になってきているようです。

そのため、精神療法はもちろん、自助グループ活動とも、薬物療法は何の関係もありません。
精神療法自助グループに参加している人々は、薬をのんでいる人もいれば、のんでいない人もいます。

『Anti Depressant Era(抗うつ薬の時代)』の著者デイビッド・ヒーリー(David Healy)は、こう書いています。

「1960年代から90年代に薬物療法に携わったほとんどの精神科医によって、精神薬理学とはクロルプロマジンイミプラミンジアゼパム、そしてリチウムに代表されるものであり、それ以外は同じ手段の単なる変奏曲ということができる」