無意識 |
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無意識という日本語は、たとえば「無意識に机の上に置いちゃった」といったように小学生ですら日常的に使いますが、本当はもっと厳密な注意が必要で、専門家になればなるほど安易に使わない言葉の一つです。 精神分析は、基本的には「意識(Bewusstsein)」と、そうでないものを区別するところから始まりますが、この「そうでないもの」にフロイトはけっして「無意識(Unbewusstsein)」という表現をしていません。 その結果、「意識(Bewusstsein)」と「意識されないもの(das Unbewusste)」に分けられています。後者は、定冠詞に形容詞がついた形です。たとえば、英語でいえば「the poor」で「貧しき者」という意味になるようなものです。 「無意識に机の上に置いちゃった」は、英語では「I put it on the table unconsciously」とはいいません。「unconscious」というのは「意識がない」状態ですから、気を失ったまま机の上にモノは置けないからです。 あえて訳せば「subconsciously」でしょうけれども、その名詞形「subconsciousness」は「潜在意識」「下意識」となります。 翻訳の話が長くなりましたが、けっきょく「無意識」というものがある、と考えているのは日本語のせいだからであって、ほんらいは「意識されないもの」という表現しかできません。専門家は「潜在意識」「下意識」「前意識」「副次意識」など使い分けて 「思わず机の上に置いちゃった」 ということを語っていることでしょう。 |