精神障害 |
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精神障害(せいしんしょうがい / mental disorder)とは、一般的にいう「こころの病(mental illness)」のことですが、より正確には、身体の一部が物理的に悪く変化(=病変)してしまうことがないにもかかわらず、精神の働きがうまく行っていない状態のことを指します。 世界的な診断基準では、DSM-IVのころのmental disorderを、公式の日本語版ですべて精神疾患と訳していました。そのころは、精神科の領域だけは例外的に組織の病変がなくても疾患とみなそうというムードがあったのかもしれません。これを意図的な誤訳と考えている精神科医も少なくありません。 しかし、それでは本来の「疾患(disease)は病理学的な異常、障害(disorder)は行動科学上の異常」という定義と矛盾してしまいます。そこで2013年に発表された最新版の診断基準DSM-5からは、mental disorderはすべて精神障害と訳されるようになりました。 けれども一方では、DSM-IVを発表したアメリカ精神医学会は「正直にいえば、精神障害という概念のための正確な境界線をしっかりと定める定義などありません。(原文:it must be admitted that no definition adequately specifies precise boundaries for the concept of ‘mental disorder.’)」と発表していますし、DSM-IVの編纂委員長だったアレン・フランセスは、「精神障害は本物の病気でも架空の神話でもなく、両者の中間だ」「精神障害の定義はない」と言っています。いっぽう世界保健機関WHOは2005年に「機能不全(dysfunction)がないものは精神障害(mental disorder)には含めない」と声明を出しています。 もし、組織的な病変がいっさいないのであれば、精神障害は語り・ナラティブなどのアプローチによって力動的に治すしかないということになるでしょう。 |